かなり腫れや内出血がひどい足の捻挫を経験した方が、その後遺症のように足の外くるぶしの辺りの痛みやしびれが残存している場合、あるいは中高年の方で捻挫の経験はないが、最近O脚になったり膝の痛みが出たりした方で靴の外側のすり減りが顕著で、足の外くるぶしの痛みやしびれ・若干の腫れなどが現れた場合など、それらは足根洞症候群(そっこんどうしょうこうぐん)かもしれません。私の治療活動においても、この様な相談で来られる方が多く見られます。
案外一般認知度が低いと思われる足根洞症候群について知っていただくために、このページでは足根洞症候群の基本情報と対処法を中心に解説します。
コラム担当:秋元接骨院院長・柔道整復師・
フットアジャストセラピスト 秋元 英俊
画像提供元:秋元接骨院
※画像や内容の無断転用を禁じます。
足関節の内返し捻挫を起こした後に、足の外くるぶしの腫れや痛みは引いて普通に歩けるようになったが、足の内返し動作や、階段・坂道の下りで出現する痛みがいつまでも取れない。あるいは、足の外くるぶしのすぐ下を押すと痛い、足の外くるぶしや足の甲がしびれるなど、いつまでも後遺症のような症状が取れないことがあります。このような症状を起こす障害のひとつに足根洞症候群(そっこんどうしょうこうぐん)があります。
この足根洞症候群は足関節の捻挫などの外傷により引き起こされるイメージがありますが、負傷の原因無く発症することもあります。
例えば変形性膝関節症を生じている高齢者や、O脚・内反足などのアライメント異常を有する方、あるいはヒールの高い靴を履く習慣のある方でも見られることがあります。その様なケースでは一時的な関節痛や筋肉痛などと診断されて、症状の消退と再発を繰り返し、徐々に悪化する症例も観察されます。大切なのは患部をしっかり観察することです。特に足の姿勢や歩容の異常の有無が重要です。
足根洞は、足の外側で距骨と踵骨の間に形成された漏斗状の溝のような構造の空洞で、下の距骨画像中の距骨溝と踵骨画像中の踵骨溝が合わさって空洞が形成されています。どちらの溝も外側開口部の方がその逆の内側開口部より広く、空洞が漏斗状であることが分かります。その空洞の広い開口部は足の外くるぶしの前下方に位置します。この足根洞外側開口部には、外側距踵靭帯、骨間距踵靭帯、頚靭帯とよばれる靭帯が有り、また伸筋支帯という靭帯様の線維組織や長趾伸筋腱などが表面を覆っています。
足根洞の空洞内には神経終末が豊富に存在し、足の後方の位置や姿勢を感知する深部知覚を担っています。また、距骨の後踵骨関節面と踵骨の後距骨関節面で形成される距骨下関節は、その関節を連結する関節包が存在し、その関節包が損傷や炎症を起こして腫れると足根洞内に面した部分が、足根洞内の神経や軟部組織を圧迫して、しびれや痛みの原因となることがあります。
足根洞症候群の発生原因には、足関節の捻挫に起因するもの、ハイヒールの常用、内反足やO脚など足や下腿の姿勢異常によるもの、足関節を形成する下腿骨・距骨・踵骨の変形を起因とするもの、痛風・関節リウマチなどの疾患を起因とするものなどがあります。以下にそれぞれの原因による発生幾転について解説します。
足根洞症候群の多くは、足関節の内返し捻挫による周囲靭帯や軟部組織の損傷に続発して起こります。この捻挫により足関節の外側靭帯や足根洞外側開口部の靭帯を損傷すると、足が不安定になり足根洞を形成する距骨と踵骨の外側接触面が解離と圧迫を繰り返します。これにより足根洞内の神経終末を支持する軟部組織が損壊します。また、足関節捻挫により損傷した靭帯や伸筋支帯の出血が足根洞内に滲出し、その血液が固まって線維性の瘢痕組織(線維の癒着や瘤)を形成することもあります。これらのような損傷組織の残骸が残存することにより神経終末を刺激、もしくは圧迫することで疼痛やしびれを起こします。ただし、1回の足関節捻挫で足根洞外側開口部の靭帯損傷を合併することは極めて稀で、足関節捻挫を反復したり、足関節の関節不安定性を生じた場合に、二次的に発症する症例の方がはるかに多いと考えます。特に、足関節捻挫が完治する前に運動復帰などで再負傷すると、足関節の外側靭帯のみならず足根洞外側開口部の靭帯損傷を合併する確率が高くなります。
また、足関節捻挫の後遺症として関節不安定性が残った場合に、捻挫の痛みや腫れが治り、しばらく無症状であっても、数か月や数年して足根洞症候群を発症することがあります。不安定な関節のために、傾斜地や不整地の歩行で距骨と踵骨で形成する距骨下関節の靭帯や結合組織などが微細損傷を繰り返して肥厚し足根洞内の神経を刺激するようになり炎症を起こすものです。
足根洞症候群を発症した来院患者の中には捻挫などの足の外傷の経験が無いケースがあります。そのような患者の足や脚部の観察をするとO脚や内反足などのアライメント異常の存在に多く遭遇します。
O脚や内反足の場合、足の外側に重心が偏り、足関節が常に内反している状態となります。この様な足のアライメント異常があると骨間距踵靭帯が常に引っ張られた状態となり、その靭帯付着部で炎症を起こしたり、靭帯そのものが微少断裂を繰り返すことがあります。このタイプは変形性膝関節症を生じた高齢者に多く見られます。
一方、ハイヒールの常用でも足関節は内反尖足姿勢を強要されるためO脚や内反足と同様に骨間距踵靭帯などの外側靭帯が微細損傷や炎症を起こすことがあります。
この様に足や脚部のアライメント異常による内反足状態が続くことで、骨間距踵靭帯を中心とした外側の足根間靭帯が損傷し、足根洞内の軟部組織の炎症や肥厚を生ずることで疼痛や神経症などの足根洞症候群の症状を発症します。
高尿酸血症により起こる痛風発作は急性期に母趾の付け根(第1MTP関節)や足関節に頻発します。
関節に痛風発作が起こった場合を痛風関節炎ともいいます。この関節炎を起こすのは、関節を覆う関節包の内面にある滑膜組織から滲出した高尿酸液により生成された痛風結節の尿酸ナトリウム結晶によるものです。
関節包の内面には関節内の栄養や潤滑などを担う滑膜組織があります。この滑膜組織は関節包に分布する毛細血管より栄養や潤滑液(ヒアルロン酸など)を取り込み関節内に透過・分泌を行います。尿酸はこの滑膜を透過できるので高尿酸血症では関節内に過剰な尿酸が入り込むことになります。関節内が高尿酸状態となると関節包の内膜に痛風結節を形成し、その痛風結節が滑膜から脱落して関節内に留まると関節炎を起こすと考えられています。
距骨と踵骨で構成される距骨下関節にこの関節炎を発症し関節が腫れると足根洞が圧迫されて足根洞症候群を起こすことがあります。
関節リウマチは関節滑膜の異常な増殖により炎症を起こす膠原病です。関節滑膜とは関節を覆う関節包の内面を構成する滑膜組織で、関節内の栄養や潤滑を担う組織です。この関節滑膜が異常に増殖すると関節の炎症を引き起こし、またその関節の炎症が慢性化することで関節軟骨や骨を破壊して関節の変形を引き起こします。
距骨下関節で関節リウマチによる関節炎を起こすことで足根洞内が圧迫されて足根洞症候群を引き起こします。
特徴的な症状は足根洞外側開口部の圧痛と、徒手的に足関節を内返し強制した時の疼痛誘発です。その他では、足関節や距骨下関節の不安定感、不整地(でこぼこ道や砂利道など)での歩行で疼痛増悪、足や下腿外側のしびれや倦怠感、腓骨外果や足根洞外側開口部の腫脹などが観察されることもあります。
足関節捻挫を起因として発症したものでは、足関節の前方引き出しテストで異常可動が観察され陽性と判定されるものもあります。
一方、発症から相当期間が経って慢性化したものでは足関節の可動範囲が狭くなっていることもあります。これは、関節動揺や疼痛回避のために周囲組織の緊張が持続したために硬直した状態で固まったためと考えます。
単純X線検査やストレスX線検査では明確な異常を観察できない場合が多く、関節造影検査では距骨下関節の関節包において、その滑膜組織が肥厚したために正常な滑膜組織に見られる襞(ひだ)状構造が観察できない画像が描出されます。
整形外科では足根洞へ局所麻酔剤を注入し症状が消失することで診断確定の判断材料とするようです。
足根洞症候群の治療方法は、その病態により整形外科による注射療法や手術療法、サポーターによる固定補助、足底板等による足の姿勢補正、運動療法によるリハビリ療法などが挙げられます。
注射療法は整形外科で施行されます。局所麻酔剤とステロイド剤の混合液を週1回の間隔で5〜6回程度施行することで疼痛がほぼ消失するようです。この注射療法に並行して腓骨筋の機能回復や足の深部知覚の改善のためのリハビリを行います。
O脚や内反足などのアライメント異常が影響する場合や、捻挫受傷後の足関節外側靭帯の修復不全により不整地での歩行で足を内返ししやすいなど、足関節や距骨下関節の不安定性が残存する場合は、一度治療を受けて治っても、再発を繰り返すケースがあります。この様なアライメント異常や足の不安定性を起因とした足根洞症候群の場合は足底板療法を施行します。足底板療法では、踵の外側にヒールウエッジという足底板を装着することで足の接地バランスを整えます。また、浮き指などによるアライメント異常で足の後方に重心が偏ったタイプの場合はヒールウエッジに加えて足の横アーチを補正するパッドを追加装着することもあります。
足関節捻挫などによる外側靭帯損傷が原因で足の不安定性が残っている場合や、足関節骨折、あるいは足関節の変形性関節症などの障害により足関節の不安定性がある場合は、サポーターや装具を利用して固定することで足関節と距骨下関節が安定し、歩行がスムーズになります。足関節や距骨下関節の不安定性が主な原因である場合はこのような固定装具を利用することで足根洞症候群の改善を促進します。
足根洞症候群では、腓骨筋の機能低下や足の深部感覚の低下を生じていることがあります。従ってこれらの機能回復訓練が必要となります。また、O脚や内反足などのアライメント異常に対する改善トレーニングを指導することもあります。
腓骨筋の機能低下
腓骨筋は足の内返し動作に対して拮抗する筋肉で、腓骨筋が緊張すると足の外返し運動が起こり、また足の内返しを抑制する作用により歩行時の安定性を担います。
足関節捻挫や腓骨骨折などを生じて足の安静期間が長引くと腓骨筋が委縮して反応が弱くなったり、筋肉の代謝不足で筋肉本体が硬直し、正常な伸縮動作ができなくなったりすることがあります。具体的には足の内返しを起こしやすくなったり、足の外側に重心が掛かることで足根洞外側開口部に持続的な負荷が掛かったりします。また、歩行時に足のつま先がしっかり上がらず躓きやすくなったり、すねや膝、太ももが疲れやすくなって歩行がスムーズに行えなくなることがあります。従って捻挫などの外傷を起因とした足根洞症候群で腓骨筋の機能低下が見られる場合は、その機能を回復するための運動療法が必要になります。
O脚や内反足などのアライメント異常が著しいタイプの方にも腓骨筋の機能低下が見られるケースがあります。
この様なアライメント異常がある方は、歩行時に足のつま先の上がりが悪く、足に重心が乗る際に身体は外側に横振れします。また、足関節の背屈可動域が狭くなり、背屈可動域0度といった方も見ることが有ります。これは腓骨筋や伸筋が十分に機能していない場合に多く見られる現象です。腓骨筋を触診すると凝り固まるように硬直している状態を触知します。この様なケースでは腓骨筋などをマッサージや低周波治療、あるいはストレッチ、運動療法などを施行して機能回復を促す必要があります。さらに拮抗する筋肉であるふくらはぎの筋肉とアキレス腱の運動性や柔軟性もチェックし、筋力が弱かったり、柔軟性に欠けるようであれば、マッサージ、ストレッチ、運動療法を施行して足や下腿の運動バランスを整えます。
足の深部感覚低下
足根洞内には豊富な知覚神経の神経終末が存在します。この知覚神経は深部感覚を担う神経を多く含みます。
深部感覚とは、位置や抵抗、運動状態、抵抗や重量感覚などを感知するセンサーとして働く機能のことで、足根洞の知覚神経は足の運動や姿勢などを制御するための情報を脊髄や脳に送っています。脊髄や脳はこの情報を元に足の運動や姿勢に関する指令を出しています。
足根洞症候群を起こすと、その炎症や疼痛により知覚神経が正常の機能を失うために、歩行や足の姿勢が不安定になります。この機能を回復しないと捻挫を反復したり、運動がスムーズに行えなくなってしまいます。従って、リハビリによって深部感覚の機能を回復する訓練も必要となることがあります。
リハビリの方法
伸筋や腓骨筋に関しては足関節の背屈動作や回内動作の反復運動が中心となります。最も簡単な方法は足指が上に上がるように足首を曲げる(足関節の背屈運動)動作を行うことです。特に負荷を掛けずに単純に曲げる、戻すの繰り返しをするだけで十分です。尚、足根洞周辺の痛みや腫れなど炎症の症状がある場合は足関節の底屈(足指を下に下げるように足関節を伸ばす動作)は禁忌です。
スポーツ選手などでは、運動用のゴムチューブなどを利用して負荷を掛けて行うことで運動に耐えられる筋力強化となります。
ゴムチューブを使った運動では、足関節背屈運動に加え、距骨下関節回内運動を施行することで効果が上がります。
治療期間が経過して足根洞の痛みが無くなったら足関節最大底屈位から最大背屈位まで大きく動かす運動をしてください。腓骨筋と拮抗するふくらはぎの筋肉も動かすことで筋肉の協力関係が強化されます。
次の項目から画像を用いて伸筋と腓骨筋のリハビリの方法と注意点を解説します。
足関節の背屈動作には距骨下関節の回内及び足関節の外反動作が伴います。主に働く筋肉は長趾伸筋、前脛骨筋で、補助的に働く筋肉が長母趾伸筋です。最大底屈状態から足と下腿が直角になる中間位までは長趾伸筋に最も力が入りますが、中間位から背屈する際には前脛骨筋や長母趾伸筋も背屈運動に大きく関わります。
基本の足関節背屈運動
靭帯損傷や習慣性捻挫による足根洞症候群の場合
深部感覚の訓練としては、前後・左右へのステップ運動が効果的です。まず立位で両足を揃えた状態で静止します。
続いて右足を1歩前、それに続いて左足を1歩前に移動し、今度は左足を1歩後ろ、続いて右足を1歩後ろへ移動する順にステップを踏みます。次に左足を1歩左側へ、続いて右足を1歩左側へ移動し足を揃えます。さらに右足を右側へ1歩、続いて左足を左側へ1歩移動し足を揃えます。これらの繰り返しや足の順番を逆にして繰り返すなどをすることで身体移動による足の位置感覚や重量感覚を刺激します。
バランスボードなど不安定な器具に乗ってバランスを取る練習により深部感覚を強化する方法もありますが、捻挫しやすい方や靭帯損傷から回復して期間があまり経過していない方の場合は、バランスボードに乗ることで捻挫や転倒などのケガをすることがあるので、すぐに捕まれる壁や台などがある場所やパートナーのいる状態で行うようにしてください。
その他ではアキレス腱やふくらはぎの筋肉のストレッチも重要です。アキレス腱やふくらはぎの筋肉が硬直していたり、腓骨筋の筋力がふくらはぎの筋力に負けていると足関節や距踵関節は内反尖足寄りに固まり、足関節の背屈動作や距骨下関節の回内動作ができなくなってしまいます。従って、ふくらはぎやアキレス腱を伸ばして背屈可動域を広げることも重要になります。
注射や固定装具、理学療法などの保存療法で症状が改善されない、あるいは一時的に症状が減弱しても症状が再び悪化するなどを繰り返す様な場合は手術療法を選択することがあります。手術療法適応の判断や手術の施行は整形外科で行われます。
一般的な手術は足根洞内の滑膜組織と脂肪組織の一部を除去する郭清(かくせい)術が行われます。
手術後約1週間程度はギプス固定を施行し、その後リハビリを行います。
その他の手術としては、損傷した靭帯を修復する靭帯再建術や、距踵関節固定術などが病態に応じて選択されることもあります。
足根洞外側組織郭清術では、全症例中の9割程度が症状改善が見られるとのことです。
靭帯再建術は距骨下関節を連結する靭帯の断裂部分を修復します。その多くは足根洞外側組織郭清術と併用して行われます。
距踵関節の関節固定術は、保存療法、足根洞外側組織郭清術、靭帯再建術などを施行しても改善されない場合に選択されます。
※ 距踵関節(きょしょうかんせつ)は、距骨と踵骨間の前・中・後関節面の連結を全て含めた名称で、その内の距骨の後踵骨関節面と踵骨の後距骨関節面を連結する関節を距骨下関節といいます。
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