ハイヒールや革靴を履いて足の親指の付け根が痛い、しびれるなどの症状を経験したことがある方は要注意!この様な症状の出る多くは足の親指(母趾:ぼし)が足の小指の方に曲がる外反母趾(がいはんぼし)が原因で起こります。
今現在、足の親指が曲がっていなくても足の親指の付け根の痛み、しびれ、発赤などの症状を繰り返すと次第に母趾が曲がり外反母趾となります。
外反母趾という言葉を聞いたことがある、もしくはすでに良く知っているという方も多いと思います。メディアで何度も取り上げられているので、様々な情報を得ている方もいるかと思います。しかし一方で、たくさんの情報があるにも拘わらず外反母趾の症状に悩まされている方がたくさんいらっしゃるのも事実です。また病院で診察を受けても適切な治療やアドバイスが得られないことがあり、不安になったりあきらめたりしている方も見られます。そこでこのページでは、外反母趾の情報を整理して掲載し、外反母趾のことを理解しながら、自分で治す方法を学んでいただけるようにまとめてみました。
コラム担当:秋元接骨院院長・柔道整復師・
フットアジャストセラピスト 秋元 英俊
画像提供元:笠原接骨院 笠原 巌、秋元接骨院
※画像や内容の無断転用を禁じます。
参照・引用元:秋元接骨院のホームページ
参考・引用文献:体操療法ー整形外科を中心としてーG.Hohmann著.水野 祥太郎 監訳 1965年 医歯薬出版
図説 足の臨床 増原 建二 監修 高倉 義典・北田 力 編集 1998年第2版 メジカルビュー社
※画像や内容の無断転用を禁じます。
「自分の足は外反母趾なのか」、あるいは「外反母趾であることは分かるが、どの程度の状態なのか」、治療活動をしていると患者さんの最初の質問はこの様な言葉から始まります。外反母趾に対処するに当たって、やはり外反母趾と診断される基準や外反母趾の進行程度を知る目安は必要です。
外反母趾とは足の親指(母趾といいます)が変形して小指(小趾=しょうし)側に曲がってしまっている状態をいいます。身体の中心線(正中線)を基準に外側へ曲がっていることを外反(がいはん)というため外反母趾という病名が付けられています。
外反母趾は母趾の外反だけではなく、母趾と連結する第1中足骨が母趾の外反に比例して内反し、足の横幅が広がる現象も起こります。
外反母趾と診断するにあたって、どの程度曲がると外反母趾というのか、その指標が必要です。そこで医学的に外反母趾を判定するために、母趾の長軸線と、その母趾と関節している第1中足骨の長軸線とのなす角度、即ち外反母趾角(Hallux Valgus Angle:HVA)により判断されます 。正確な計測は、整形外科等の医療機関で行われます。その方法は、過重負荷(足に体重をかけた状態)時のレントゲン撮影にて、そのレントゲン画像を用いて計測します。通常は、その角度が15度以上を外反母趾と診断されます。また、簡易計測では足裏に角度計を当てて母趾の長軸と足裏の内側の長軸との角度で判断します。
外反母趾角(HVA)による分類 | |
正常値 | HV角9〜15゚ |
軽度の外反母趾 | HV角16゚〜20゚ |
中程度の外反母趾 | HV角20゚〜40゚ |
重度の外反母趾 | HV角40゚以上 |
外反母趾は、文字通り母趾が外反し、母趾の付け根が痛くなるというのが一般的に知られている症状といえます。例えば、外反母趾角(HVA)が20゚以上を中程度、40゚以上を重度などと分類することもありますが、実際にはこの角度だけでは語れない様々な症状や病態が見られます。外反母趾の病態を詳しく述べると、事態はそんなに単純では無く、外反母趾を生じた部分を中心に周辺組織が複雑に変化していることが分かります。その変化の過程で痛み、しびれ、腫れ、変形、関節可動域制限など様々な症状が出現します。その外反母趾の病態を順次見ていきます。
外反母趾を発症すると痛み、しびれなどの特有な症状が現れることがあります。以下の画像に外反母趾で比較的多く見られる症状を列挙しています。これらの症状の一部や複数が外反母趾により誘発されます。
外反母趾は軽度から重度までその変形の程度により症状や病態が変化します。その病態について以下に段階に分けて解説します。
外反母趾では母趾が外反し、対照的に第1中足骨は内反します。さらに足は内側縦アーチが下がって足部の外反を起こします。
いわゆる母趾の付け根で第1中足骨の末端(骨頭)の下部には、母趾を動かす腱を誘導する二つの種子骨が有ります。外反母趾を発症して第1中足骨が内反すると、この種子骨が本来あるべき位置から腱と共に外側(小趾側)にずれてしまいます。種子骨は第1中足骨の骨頭に下駄を履かせたように2つ1組で支えているのですが、ずれてしまったために内側の種子骨が骨頭の真下に位置することになります。また種子骨の近くを通る神経も一緒にずれるため、内側の固有足底趾神経が骨頭に圧迫されます。このために母趾の付け根の底側(裏側)や内側に痛みや痺れ(しびれ)を感じるようになります。
母趾には表側(背側)、裏側(底側)ともに複数の筋肉や腱が付着しています。外反母趾が進行すると、これらの筋肉や腱が全て外側に偏位します。外側に偏位した筋肉や腱は、さらに母趾を外反させる方向に引っ張るようになります。この段階になると、荷重歩行する度に母趾を外反方向へ引っ張るために、装具を着けて矯正しなければ、歩けば歩くほど外反母趾は悪化していきます。
外反した母趾を手などで他動的に真っ直ぐ向くように起こそうとしても、抵抗があって真っ直ぐに戻し難い状態になっています。
外反の程度が大きくなるため、中足骨頭(ちゅうそくこっとう:母趾の付け根のくるぶし部分)は内側に出っ張り、靴などに擦れて炎症を起しやすくなります。内側に出っ張った中足骨頭と皮下組織の間にある滑液包が炎症を起すと、いわゆるバニオン(滑液包炎・腱膜瘤)を生じます。バニオンを生じると母趾MTP内側が赤みを帯びて腫れ、痛みも強く感じます。また、第1中足骨と第2中足骨の骨頭の間が開いて、靱帯(深横中足靱帯)や腱(母趾内転筋横頭腱)が引っ張られるために、荷重が加わるとこの骨頭間に痛みが起こります。やがて深横中足靭帯は伸びて、間隔が広がり緩んだ中足は元に戻らない状態に変化します。この様に中足骨頭が横に広がった状態を開張足(かいちょうそく)といいます。開張足を起こすと横アーチの頂点だった第2中足骨頭が下がって皮膚を刺激するようになるために以下の症例画像のように2趾の付け根にあたる部分に胼胝が形成される症状が観察されます。
変形はさらに進行し母趾はMTP関節で亜脱臼を起こしたり、第1中足骨の骨頭内側に生じる骨隆起が大きく目立つ状態になります。
母趾MTP関節は外反した状態で固まって可動性が著しく損なわれます。また、母趾が第2趾の下に潜るようになり2趾は上に持ち上げられて、2趾の付け根の裏側と2趾の指節間関節の表側に胼胝(たこ)ができます。やがて2趾もMTP関節で背側に亜脱臼を起こすようになり、そのまま亜脱臼位で固まっていきます。
中足骨間の開きも大きくなり足の横アーチは無くなり著しい開張足となります。それと共に3趾や4趾も浮き上がるように縮こまり、5趾は母趾側へ内反します。また、足の縦アーチも低くなり顕著な扁平足になっています。
歩行の時に、足の指先は機能しなくなり、蹴り出すときは足の指の付け根に大きな負担が掛かるようになります。そのため、中足骨頭痛が母趾だけではなく、第2〜4中足骨頭部にも起こるようになります。また、血行の悪くなった爪は変形や変色を起す場合があります。
外反母趾の原因には、先天的要素と後天的要素があります。
先天的要素は、遺伝、体質(関節が変形しやすい・脆弱)、あるいは先天性疾患による骨・軟骨形成異常を原因とするものなどがあります。一方、後天的要素には、病的なもの(リウマチや変形性関節症など)、外傷を起因とするもの(骨折や脱臼など)、生活習慣や靴による影響、歩行バランスや姿勢によるものなどがあげられます。
外反母趾の最も適切な解決方法は、原因の除去といえます。従って原因を見極めることは、外反母趾を改善するための近道といえます。
■ 履物や靴下による影響
「履物やストッキングなどで足指が圧迫される。」 外反母趾の大半は、これが直接的原因と言えます。靴やサンダルなどの履物により指先が圧迫されるのは、だれでも注意するところですが、靴下やストッキングで圧迫されることについては、意外と無頓着なケースが多いようです。せめて自宅内では足指が圧迫されない5本指靴下などに履き替えるぐらいのことは最低限のケアであると考えます。
外反母趾や足趾の付け根の痛みを訴える患者の内、靴が原因と思われる方が多くを占めています。例えば、「靴のサイズが合わない」が挙げられます。靴のサイズが小さくて指先が圧迫されて外反母趾を生じるのはもちろん、靴やサンダルなどの履物では、サイズがゆるすぎても、履物が脱げないように指を上げて履物を押さえたり、履物の中で足が前の方にずれて行き、指先が圧迫されるなどの弊害を生じます。
その他に「靴の形状が合わない」も原因の一つです。仕事でパンプスやハイヒールなどを履かなくてはならない場合や男性でも先のとがった靴や安全靴などを履かなくてはならない場合でも外反母趾を起こしやすい要因となります。
■ スポーツによる影響
スポーツ種目の中で外反母趾の発症例が比較的多いのは、サッカー、剣道、マラソンです。サッカーの場合は、走るのはもとより、急に止まって方向転換する、ボールを蹴る、ドリブルするなど足の指の付け根にかかる負担は他のスポーツとは比較できないほど
過酷なものと思われます。マラソンは長時間走り続けるために、足指が常に靴の先の方に押し付けられて圧迫を受けます。
サッカーとマラソンの共通点は、靴を履いたまま長時間走り続けることです。走っている間は、足部の前の方に重心が乗ります。足趾の付け根、特に母趾球部分で強く蹴るときに、中足間隔(横幅・足幅)が広がり横アーチが下がります。また、足は靴の中で前方へ滑るために足の指先が詰まるように圧迫されます。この状態が長期間にわたり繰り返されると、中足の横アーチが広がり、母趾は外反します。また、母趾の付け根が圧迫されることによるバニオンの発症や、足底筋膜の炎症などを合併することもあります。シューズを履いて運動するスポーツでは、正しいスポーツシューズの履き方、足に合ったシューズの選択やフィッティングが外反母趾を予防するための第一歩といえます。
剣道の場合は、元々外反母趾を有する方や開張足、あるいは外反扁平足など足のアライメント異常がある方に起こりやすい傾向があります。この様な足部の変形を有する方が剣道の練習で繰り返し踏み込む動作をすると、横アーチを支える組織が疲労性炎症や疲労性損傷を起こして足幅が広がります。それと同時に母趾は外反し、外反母趾の症状が出現します。
同じ様にパンプスやヒールの高い靴を履いても、外反母趾になりやすい人となりにくい人がいます。また、パンプスを履かない子供や男性でも外反母趾になる人がいます。
この原因の一つに体質的要素があげられます。また、骨格の形状が、個人により様々な形態的な変異があり、外反母趾になりやすい構造の存在が上げられます。
体質的要素には、遺伝や先天性疾患などの先天的なものと、リウマチなどの膠原病や代謝障害性の病気などの後天的なものがあります。特にリウマチを始めとした膠原病患者においては、骨や関節、あるいはそれらを取り巻く滑膜組織などが脆弱となり関節の炎症や変形を引き起こしやすくなっており、ほとんどの方が二次的障害として外反母趾を発症します。この様な体質的脆弱な状態では、靴やストッキングによる指先の圧迫、あるいは運動や労働による足の疲労でアーチが下がり足部の外反を起こすなど、健康な方よりも外力に対する抵抗性が劣るために、外反母趾変形を起しやすい体質的条件下にあるといえます。
一方、骨格の形態的問題では、母趾が他趾と比較して過度に長く、靴やストッキングによる外反向きへの圧迫を受けやすい形状にあるもの、あるいは第1中足骨と内側楔状骨で形成される関節構造の変異の存在により、第1中足骨が内反しやすい関節面の形状を有する場合に、外反母趾変形を生ずる可能性が高い構造的条件下にあるといえます。
外反母趾の治療は、保存療法と手術療法があります。手術療法については整形外科の専門となりますので整形外科のサイトを参照してください。ここでは、保存療法の概要を中心に解説することとします。
外出中に足指などに負担をかけて炎症を起こしたら、発赤や腫れ、あるいは痛みの症状が出現します。母趾の付け根に炎症が起きているときは、関節軟骨や関節周囲の靱帯、滑膜などにダメージを受けている状態です。この繰り返しで関節の変形や周囲組織の病態悪化が進行していきます。アイシングは炎症を鎮め、病態の悪化を予防する効果があります。従って、痛みや炎症が起こったら、放置せずにアイシングをしてあげてください。アイスパックや保冷剤をタオルやハンカチでくるんで、痛い部分を中心に約15分冷やしてください。アイシングの代わりに冷湿布を貼るのも有効です。 また、アイシングや湿布をするときに、包帯で固定をするとさらに効果があります。アイシングの際に包帯をするときは、包帯を巻いた上から直接アイスパックなどを当ててください。また、湿布をする場合は、湿布を先に貼り、その上から包帯を巻いてください。
足の爪にマニキュアを塗るときなどに使う指の間に挟むパッドです。ドラッグストアや東急ハンズ、ロフトなどの雑貨を取り扱う専門店やデパートなどでも売っています。
上画像のように指間パッドを装着し、足の指をしっかり広げましょう。また、この時にマジックベルトや伸縮包帯などで中足・足根部分を締めるとさらに効果が上がります。
外反母趾は、母趾が外反するだけではなく、第1中足骨の内反・回内も生じています。その結果、足指の付け根の足幅が広がるわけです。従って中足・足根部分を引き締めることで外反した母趾も含めて足指は開き、緩んで広がった中足が引き締まります。窮屈な靴や合わない靴を一日履いたりなどで、足指や中足に負担をかけたときは、特にこのケアを行ってください。
時間は約20分から30分ぐらいが目安です。指間パッドを着けたままで長時間放置するのは、痛みや痺れなどの原因となるので、この目安時間を厳守してください。
外反母趾や開張足、浮き指など足のトラブルがあると足の本来の緩衝機能が発揮できないため、足や脚部は疲れが溜まりやすく筋肉や関節がこわばります。そこで指圧やマッサージなどで足や脚部の疲労を取り、こわばった組織をほぐしましょう。
こわばったり、むくんだりしたまま放置すると歩行バランスがくずれて、外反母趾の悪化の原因となってしまいます。特に足裏の中足骨頭部、土踏まず、あるいは足指、ふくらはぎやアキレス腱、すねの外側などの組織が硬くなりやすい部分なので、指圧、マッサージ、ストレッチなどを併用してほぐすことで、足の代謝が高まり、足の動きも改善されます。また、足指でグーパー運動をして、足の指を動かす筋肉を刺激しましょう。足指でタオルを掴み、離すの繰り返し動作も効果があります。またタオルを足指で手繰り寄せるタオルギャザーという運動も推奨されています。
就寝時にマジックバンドや伸縮性の包帯などで中足部分を締めると、外反母趾や開張足などのメンテナンスになります。
整形外科の青木孝文先生が推奨している方法では、5cm幅の伸縮性包帯で母趾の付け根と小趾の付け根のふくらみから中足(足の甲)の部分にかけてやや強めに4〜5回ほど巻くとの事。あまり強く巻くと痛みや違和感でつらくなるので、強すぎず弱すぎず圧迫感をわずかに感じる程度の締め具合を練習して、巻き加減を修得する必要があります。これを就寝中だけ、毎日行うことで外反母趾などによる諸症状が改善した症例があります。尚、就寝中に指間パッドなどを使ったケアは足指の神経や血管を長時間圧迫することによる神経障害や血行障害が起こるので行わないでください。就寝中は包帯やマジックバンドで足の甲を軽く締めるだけで十分な効果が得られます。
運動中は日常生活動作よりも動きが激しく足にも推進力や加速力が加わるために靴の中で足が前方へ滑りやすくなります。靴の中で足が前方へ滑っていくと、当然足趾は靴の先端部分で圧迫されてしまいます。このまま放置していると母趾の付け根の痛み、しびれ、足裏の痛み、タコやウオノメの痛みなど足の姿勢不良によるトラブルが発生し、外反母趾を悪化させる大きな要因となります。スポーツシューズやウォーキングシューズを選ぶときは、以下の事項に注意してください。
■ 足の大きさに適した靴を選ぶ
足の長さ(足長)を実測し、その長さにプラス1〜1.5cmの靴が適性です。足の長さは踵の最後端から足指の最先端(一般的に母趾か2趾のどちらか長い方の先端)までを測ります。自分で上手く測れない場合は靴店で測ってもらいましょう。その時に足の横幅(足幅)や周径(足囲)も測りましょう。足趾の付け根の中足骨頭の位置でメジャーを使って測ります。足長と足幅が分かれば靴の適性サイズがある程度特定できます。
■ 安定性のある靴を選ぶ
靴を床に置いて踵の中心部分を手の指で上から軽く押してみます。その時に靴が左右にぐらつかず安定しているものを選びましょう。靴の安定性が悪いと運動時に足が不安定となり、ケガの原因となることがあります。また足が不安定だと無意識に体幹で安定性を保とうとするため、身体に余計な力が入り運動パフォーマンスが低下します。
■ 靴の履き口や踵がフィットしているものを選ぶ
靴の履き口や踵周りがきついと当然ながら足の痛みや靴擦れの原因となります。また逆に緩くても靴の中で足が前方へ滑り、足指を圧迫することになります。足指が靴の先に押し付けられて曲がると外反母趾が悪化することはもとより、足裏の筋肉や腱膜が引っ張られて足底腱膜炎の原因になる他、踵の痛みや靴ずれの原因にもなります。
■ 靴ひもでしっかり足をホールドする
靴ひもを縛るときは踵を地面に着け、一方でつま先は浮かせて上に向けた姿勢にし、踵を靴のヒール部分にしっかり密着します。その姿勢のまま靴ひもをしっかり縛ります。靴ひもの締め具合は指を一本挿入すると何とか挿入できる程度のわずかな余裕を持たせます。あまり強く締めすぎると足の甲や足首近くで痛みや腱鞘炎などを起す原因となるので注意しましょう。
このように靴の履き方が正しく出来て、靴のサイズやフィッティングが正しければ、つま先部分は1cm〜1.5cmの余裕ができます。また足首や足の甲の部分でしっかりホールドされていると運動中も靴の中で足が前方へ滑るのを防ぎ、外反母趾の痛みなど足のトラブルを起しにくくなります。
ドイツの整形外科医ホーマン(Georg Hohmann:1880年〜1970年)の著書に紹介された体操のひとつに外反母趾体操があります。この体操を考案したのはホーマン教授と体操療法の本を共著したリナ イゲール スタンフ夫人(Lina Jegel Stunpf)です。
著書には床の端で立ち、足指を床の端から外へ出した状態で左右の母趾に環になった帯を掛け、曲がった母趾を真っ直ぐにした状態で母趾の屈伸をする体操として紹介されています。
現在広く紹介されているホーマン体操とは方法が異なっており、どの様な経緯で現在のホーマン体操に変わったのかは、まだ私は調べがついていません。
一般的に知られているホーマンの外反母趾体操は、幅広のゴムを左右の母趾に掛けて引っ張る体操です。この体操は外反角の改善効果が報告されていて、軽度の外反母趾や中程度の中で比較的軽い外反母趾では外反角の改善が期待できます。また中程度以上の外反角が大きい外反母趾でも、外反角の更なる悪化の予防や外反母趾による痛みやしびれなどの症状の改善効果が得られた症例の報告があります。
この体操は比較的簡単な方法ではありますが、正しいやり方で行うことが重要で、誤った方法で行うと逆に悪化することがあるので注意が必要です。
以下に画像にてホーマンの外反母趾体操の方法を解説します。尚、画像中に使用したゴムは裁縫用のパジャマゴムかパンツゴムの幅15ミリを長さ25センチにカットして、3〜4センチほど重ねた所をホチキスで止めた輪っか状にしたものです。また、体操を行う時は足の横アーチを引き締めるテーピング機能の付いた5本指靴下を着用しています。このような靴下を履くことで、体操時に母趾に掛かる張力の影響が足の横アーチを広げてしまうことを予防し、ゴムで足指の皮膚が擦れることも防ぎます。
尚、ホーマン教授とリナ イゲール スタンフ夫人が書籍で報告した外反母趾体操の方法も続けて紹介します。
※ 一般的に知られているホーマンの外反母趾体操
上画像のホーマンの外反母趾体操は、母趾の付け根の関節(MTP関節)が外反向きに硬直して固まっている状態をほぐしてストレッチする効果があります。
※ ホーマン教授の書籍で紹介された外反母趾体操
ホーマンが初めに紹介した上画像の外反母趾体操は、左右の母趾の姿勢を整えた状態で母趾の屈伸運動をすることで母趾本来の機能を回復する効果があります。
下の画像のように外反した母趾の状態で母趾の屈伸運動をすると、母趾がさらに外反する方向へ引っ張られ、また母趾の付け根の関節(MTP関節)は歪んだまま動くことで関節内の組織の摩滅と変形を進行させてしまいます。一方、母趾を正しい位置に整えて運動すると、母趾の本来の機能を再教育し、関節内の代謝活動が活性化されるので、外反した状態で硬直した関節をほぐし、炎症により変化した組織を正常に回復させるための代謝活動も活発になります。
外反母趾では、足の横アーチが広がる開張足や足の縦アーチ下がり扁平化する外反足や外反扁平足を起こします。このような足の歪みを改善、予防する目的でタオルギャザーとつま先立運動があります。
この運動はドイツのホーマン教授とリナイゲールスタンフ夫人共著の体操療法の中に重しのついたタオルを引き寄せる運動方法として紹介しています。
タオルギャザーは足指でタオルを手繰る運動で、足指を曲げる筋肉を動かします。足指を曲げる筋肉には、足の縦アーチと横アーチを支える作用のある筋肉が活動するのでリハビリとして非常に有効です。
つま先立運動では、ふくらはぎの深部にあるインナーマッスルで足の縦アーチを支える後脛骨筋と、足指を曲げる運動+足の縦アーチを支える作用のある長母趾屈筋、および長趾屈筋を動かします。この運動により足のアーチを支える力を強化する効果があります。また、つま先立ち運動では、足指と足の付け根で身体を支える姿勢となります。従って、足指で地面を捉える動作も同時に身につくメリットもあります。足指と足の付け根両方でしっかり支えると、つま先立ち姿勢でふらつくことが無く立っていられますが、足指に力が入っていないとつま先立ちをしようとしても身体がふらついて立っていられなくなります。つま先立ち運動を根気よく行うことで足の接地バランスが整う効果が得られるのでタオルギャザーと共におすすめのリハビリ運動といえます。
外反母趾の場合、母趾と連結している第1中足骨は外反した母趾とは逆に内反・内旋しています。この第1中足骨の内反・内旋は外反母趾を悪化させ、足の縦アーチが下がり、足の横アーチを広げる骨格の歪みの原因となります。従って外反母趾を改善するためには、 この第1中足骨の内反・内旋を改善しなければなりません。
中足骨の内反・内旋を改善するために靴の内側にウエッジ(傾斜板)や、アーチパッドなどを挿入する足底板療法があります。
足底板療法には、市販されている簡易足底板や、アーチサポート機能やヒールウエッジ機能の付いたインソールなどを活用する方法と、整形外科で処方され義肢装具士が制作する足底挿板があります。
外反母趾の場合は画像のように第1中足骨が内反かつ内旋した状態に対し、断面が楔状に傾斜のついた足底板を内側から挿入して足の姿勢を補正します。
インソールや整形外科で処方される足底挿板では、内側縦アーチを支える傾斜と横アーチを支える中足の隆起が付いたタイプのものが利用されます。
自宅内など靴を履いていないときは、包帯や外反母趾用サポーター、整形外科で処方される外反母趾用装具などで矯正・固定をすることで、外反母趾角の改善が期待でき、あるいは外反母趾角の悪化を予防する効果があります。
包帯で固定する方法や整形外科で処方される矯正装具などは、しっかりした矯正・固定が可能ですが、装着が面倒だったり、歩きづらいなどのネックがあります。一方で、市販の専用サポーターは手軽で扱いやすいですが、矯正・固定力が低いので症状緩和を求めた日常動作のサポートやリハビリのサポートとして活用するものとなります。
外反母趾のテーピング療法は、接骨院や整体などの民間療法の施術で活用されることが多い方法です。
テーピング療法の最大の利点は靴や靴下を履くことができる点です。しかし、テーピング療法で外反母趾を治すことはできません。あくまでも日常のサポートとしての位置づけとなります。
例えば、外反母趾の痛みやしびれによりスポーツや労働などに支障がある場合、テーピングにより母趾の姿勢を矯正・固定すると、テーピングが効いている間は症状が緩和されて動作が楽になります。また、ホーマンの外反母趾体操などのリハビリをした後に、そのリハビリ効果をしばらく持続したいなどの時に簡易固定としての効果があります。そういった意味でテーピングを活用するならば非常に便利な手段といえます。
テーピングの欠点は、テープの施行に慣れが必要で初めは専門家に貼ってもらうか、貼り方の指導を受けて練習しなければならないこと。また、皮膚のかぶれや損傷のリスクがある点などとなります。
症状緩和やサポートとして比較的効果を認めたテーピング方法を以下に紹介します。
外反母趾の治療には、手術、装具療法、体操などの理学療法、テーピングや包帯などの固定療法があります。治療方法を選択する上で重要なのは、外反母趾の程度や状態を正しく把握することです。そのためには、整形外科や足の専門外来などで、医師の診察とアドバイスを受けましょう。
外反母趾の程度が軽度、あるいは中程度の中でも比較的軽い場合は、装具や足指体操、靴の改善などのケアを行うことで回復が期待できます。
中程度以上の比較的進行した外反母趾では、装具やリハビリなど手術以外の方法によるケアの場合、その角度が現状より僅かに改善されることもありますが、あまり期待はできません。生活条件や症状などの具合により手術を含めた対策を検討する必要があります。手術によるメリットとデメリットなど医師の説明を充分に聞いた上で治療方法を選択しましょう。尚、保存療法(手術以外の方法)を選択する場合は、痛みや歩行バランスなど諸症状の改善と外反母趾の進行予防のためのケアと考えてください。
外反母趾の治療やケアを行う前に、自分がなぜ外反母趾になったのか、その原因をしっかり把握しなければなりません。原因が分からないまま治療などを行っても、その原因が排除されない限り症状の改善は見込めません。また、進行を食い止め予防をするためにも原因の除去が最も大切な対策となります。例えば、靴が合わないのがきっかけで外反母趾になったとします。極端な事をいいますと、手術までして治したのに、また合わない靴を履き続ける事で外反母趾は再発してしまうのです。「外反母趾を治して、かわいい靴やかっこいい靴を履いて思いっきりおしゃれをしたい」などと考えて、思い切って手術を受け、せっかく外反母趾を治しても、このような考えでは、再発するのは目に見えています。「外反母趾の再発は、手術をした医師が腕が悪いからだ」と言って、医師にやつあたりしてもその先生がかわいそうです。外反母趾を引き起こす原因は様々なので、自己判断だけではとても危険です。明らかにこれが原因だと分かっている場合はともかく、医師やその他の専門家に相談したり、家族など生活を共にしている人の意見を聞くことも大切です。そして、その原因がある程度分かったら正しい対処方法も見えてきます。
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